ところが、Statistics Canada(カナダ統計局)のデータを見ると、意外な結果が出てくる。カナダの携帯電話サービスの価格指数は、2017年から2025年にかけて52.8%も下がっていた。食品や家賃など、多くのものが値上がりする中で、携帯電話サービスは逆に大きく安くなっている。

では、カナダの携帯料金はもう高くないのだろうか。そもそも、なぜこれまで高かったのか。政府の統計や通信市場のデータから調べてみた。

2019年には月$30で1GBだった

2019年のカナダでは、データ通信量が1GBのプランに月$30程度かかることがあった。これは単なる個人的な記憶ではない。カナダの通信規制当局CRTCによると、2019年の1GBモバイルプランの平均料金は月$29.03だった。実は、これでも前年から25.8%下がった価格だ。2018年には平均$39.10だった。

当時、1GBというデータ量は決して多くなかった。外出先で動画を見たり、大きなファイルをダウンロードしたりすれば、すぐに上限に近づいてしまう。現在は月$30程度でも数十GBを利用できるプランが登場しており、同じ予算で使えるデータ通信量は大幅に増えた。ただし、通信会社や契約条件、キャンペーン、利用地域によって、料金やサービス内容には差がある。

携帯電話サービスの価格指数は8年間で52.8%下落

Statistics Canadaの通信統計によると、携帯電話サービスの価格指数は2017年を100とした場合、2025年には47.2まで下がった。8年間で52.8%の低下だ。一方、同じ期間にカナダ全体の消費者物価指数は100から125.9へ上昇している。物価全体が25.9%上昇する間に、携帯電話サービスの価格指数は半分以下になった。

カナダの携帯電話サービス価格指数と消費者物価指数(2017〜2025年)

ただし、これは月々の携帯料金が全員半額になったという意味ではない。携帯電話サービスの価格指数は、通話、テキストメッセージ、モバイルデータ通信などのサービス価格の変化を測るもので、月額料金だけでなくサービス内容も重要になる。

例えば、以前は月$50で5GBだったものが、現在は同じ$50で50GB使えるようになったとする。月々の支払額は変わっていないが、利用できる通信量は10倍だ。このように、通信サービスの価格指数が下がっていても、実際の請求額が変わらなければ、安くなったと感じにくい。

なお、2024年から2025年にかけても、携帯電話サービスの価格指数は48.0から47.2へ、さらに約1.7%下がっている。

それでも、カナダの料金は国際比較で高い

携帯サービスの価格指数は下がっている。しかし、他国の料金プランと比べると、カナダは依然として高い水準にある。カナダ政府のInnovation, Science and Economic Development Canada(ISED)が公表した2025年の国際通信料金比較を見てみよう。

全国通話・SMS使い放題と5GB以上のデータ通信を含むプランについて、各国の平均料金は次のようになっている。

携帯料金の国際比較:5GB以上の対象プラン平均料金(2025年)

金額は購買力平価(PPP)でカナダドルに換算した加重平均で、税金などを含む。対象は調査で定義された全国通話・SMS使い放題、データ5GB以上の料金プランであり、各国の最安料金や利用者の実際の平均請求額を示したものではない。出典はISEDの2025年版通信料金国際比較調査(2026年5月公表)だ。

この比較では、カナダの$70.63はイギリスの約4.1倍、フランスの約5.6倍となっている。一方、日本は$68.33で、カナダとほぼ同じ水準だった。日本にも格安SIMはあるが、この表は格安プランだけを比較したものではないため、調査対象やプラン条件によって国ごとの印象は変わる。

同じ調査では、カナダの対象プランの最低価格は$30.45だった。比較的安い選択肢も存在するが、対象プランの平均価格は依然として高い。

長期的には値下がり、でも2025年の料金調査では値上がり

もうひとつ、興味深い数字がある。ISEDの調査では、カナダの5GB以上の対象プランの平均料金は2024年の$63.80から2025年には$70.63へ上昇していた。上昇率は10.7%だ。

これは、同じ2025年にStatistics Canadaの携帯電話サービス価格指数が約1.7%下がったことと、一見矛盾しているように見える。しかし、2つの統計は測っているものが違う。Statistics CanadaのCPIは消費者が利用する携帯サービスの価格変化を継続的に測るものだ。一方、ISEDの国際比較は、一定の条件を満たす料金プランを集め、その価格を比較している。

対象となるプラン構成や料金の集計方法も異なるため、一方の統計で値下がりし、もう一方で値上がりすることはあり得る。カナダの携帯電話サービスが長期的に安くなっていることと、現在販売されているプランの平均料金が高いことは、必ずしも矛盾しないのだ。

なぜカナダの携帯料金は高かったのか?

カナダの携帯料金が高かった背景には、いくつかの理由がある。特に重要なのは、大手通信会社に市場が集中していることと、新しい通信会社が参入するための条件だ。

理由① Rogers、Bell、TELUSの大手3社が市場の約90%を占める

カナダの主要な携帯通信会社といえば、Rogers、Bell、TELUSの3社だ。CRTCの2026年版通信市場レポートによると、2024年時点でも、この大手3社が国内の携帯通信市場の約90%を占めていた。

一見すると、カナダにはもっと多くの通信会社があるように見える。例えば、Fido、Chatr、Virgin Plus、Lucky Mobile、Koodo、Public Mobileなどの格安ブランドがある。しかし、実際には大手通信会社の傘下にあるブランドも多い。

大手通信会社主な格安ブランド
RogersFido、Chatr
BellVirgin Plus、Lucky Mobile
TELUSKoodo、Public Mobile

料金プランや販売方法には違いがあっても、これらがすべて独立した会社同士の競争というわけではない。同じグループ内で複数のブランドを展開することで、価格を重視する顧客からサービス内容を重視する顧客まで幅広く取り込むことができる。

その一方で、独立した競争相手が少ない市場では、価格競争が十分に働きにくくなる可能性がある。CRTCも、カナダの携帯通信市場で大手事業者が持つ市場支配力を問題としてきた。ただし、市場の集中度だけで料金の高さをすべて説明できるわけではなく、設備投資のコストや地域ごとの競争状況も関係している。

理由② 格安SIM事業者が参入しにくかった

日本では、格安SIMを提供するMVNOという仕組みが広く知られている。MVNOは、自社で全国に基地局を建設する代わりに、既存の通信会社のネットワークを借りてサービスを提供する事業者だ。大規模な設備投資を最初から行う必要がないため、新しい会社が参入する方法のひとつになっている。

カナダにもMVNOや格安ブランドは存在するが、大手通信会社のネットワークを利用する制度には制約があった。CRTCは2021年、地域通信会社の競争を促すため、一定の条件で大手事業者のネットワークを利用できるMVNO制度を導入した。ただし、この制度は誰でも自由に大手のネットワークを借りられる仕組みではない。

対象となる地域通信会社には、周波数の利用権を持つことなどの条件がある。すでに設備投資を行っている地域事業者が、まだ自社ネットワークを整備していない地域へサービスを広げるための制度という性格が強い。

CRTCは、価格競争を促すことと、通信会社がネットワークへの投資を続けられることの両方を重視している。そのため、単純に格安SIM事業者を増やすだけではなく、設備投資とのバランスを取る仕組みが採用された。こうした制度上の違いも、カナダで独立した格安通信事業者が増えにくかった背景のひとつと考えられる。

理由③ 国土が広く、通信設備にお金がかかる

カナダの通信料金が高い理由として、よく挙げられるのが国土の広さだ。人口は都市部やアメリカとの国境に近い地域に集中している一方、人口密度の低い地域にも通信サービスを提供する必要がある。限られた契約者数に対して、基地局や通信設備を維持しなければならない。

また、5Gなどの新しい技術への投資も必要だ。CRTCの2026年版レポートによると、カナダの通信事業者は2020年以降、固定回線と携帯通信を含むネットワークに累計644億ドルを投資している。こうした設備投資は通信事業にとって重要なコストだ。

ただし、国土の広さだけですべてが説明できるわけではない。CRTCは2021年の政策文書で、通信設備への投資や周波数の取得に費用がかかることを認めながらも、携帯通信市場には競争を制限する市場支配力が存在すると判断している。つまり、カナダが広いという地理的な条件だけでなく、競争がどの程度働いているかも重要なのだ。

理由④ 電波の周波数を取得する費用も高い

携帯通信会社がサービスを提供するには、通信に使う電波の周波数が必要になる。カナダでは、周波数の利用権がオークションなどによって割り当てられ、通信会社はその取得のために多額の資金を負担する場合がある。こうした取得費用も通信事業のコストの一部だ。

ただし、周波数の落札額が高いことと携帯料金が高いことの間には、単純な一方向の関係があるとは限らない。通信会社がその周波数を使って将来どれだけ収益を得られると考えているかも、落札価格に影響するからだ。設備投資、周波数取得費用、そして市場競争。これらが組み合わさって、携帯通信サービスの料金が決まっている。

では、なぜ最近は安くなってきたのか?

カナダの携帯料金が大きく下がった背景には、競争環境の変化がある。Freedom Mobileなどの地域通信会社は、大手3社とは異なる料金プランを展開してきた。また、CRTCのMVNO制度によって、一定の条件を満たす地域通信会社がサービス地域を広げやすくなった。

実際、CRTCの2026年版レポートによると、2024年に新たに増えた携帯契約者のうち、55%以上が新規参入・地域通信事業者によるものだった。これは、契約者の増加分において、大手3社以外の事業者が存在感を強めていることを示している。

もちろん、大手3社は依然として市場の約90%を占めており、市場構造が大きく変わったわけではない。それでも、地域通信会社の成長や格安プランの拡充によって、以前より多くの選択肢が生まれている。

安くなったのに、なぜまだ高く感じるのか?

ここまで調べて気づくのは、携帯料金には2つの異なる見方があるということだ。ひとつは通信サービスの内容に対してどれだけ安くなったか。もうひとつは、実際に毎月いくら支払っているかだ。

例えば、以前は月$50で5GBだったものが、現在は月$50で50GB使えるようになったとする。データ通信量当たりの価格は大幅に下がっているが、毎月支払う金額は同じ$50だ。さらに、あまりデータを使わない人にとっては、50GBという容量そのものが必要ないかもしれない。通信量が増えることより、月額料金そのものが安くなることを望む人もいるだろう。

Statistics Canadaのデータでは携帯サービス価格が大幅に下がっている。一方、ISEDの2025年調査では、5GB以上の対象プランの平均料金は$70.63で、2024年の$63.80から10.7%上昇している。長期的な値下がりは事実だが、家計への負担が十分に小さくなったとは限らない。

また、同じ通信会社を何年も利用している場合、新しい料金プランへ自動的に切り替わるとは限らない。新しいプランと現在の契約を比べることで、月額料金を抑えられる可能性もある。

データは増えた。でも、支払う金額は?

2019年には、月$30で1GBというプランが珍しくなかった。それから数年で、カナダの携帯通信サービスは大きく変わった。Statistics Canadaの価格指数は2017〜2025年に52.8%下がり、以前と同じ予算で利用できるデータ通信量も増えている。

一方、2025年の国際料金比較では、カナダの対象プランの平均価格は依然として高く、日本に近い水準だった。カナダの携帯料金が高かった背景には、大手3社への市場集中、独立した通信事業者の参入条件、ネットワーク設備や周波数のコストなど、複数の要因がある。

最近は地域通信会社の成長や格安ブランドの競争によって選択肢が増えているが、市場全体の構造はまだ大きく変わっていない。何十GBも使えるようになったことと、毎月の請求額が安くなったことは同じではない。

カナダの携帯電話サービスは確かに改善している。それでも、特に少量のデータしか使わない人にとっては、通信量を増やすことより、もっと安い月額料金を選べることの方が重要なのかもしれない。