スカイトレインの延伸計画を聞くたび、「完成するのは何年も先だな」と感じる。
ブロードウェイ地下鉄は当初、2025年開業の予定であった。開業は2度延期され、現在は2027年秋を目指している。事業費も、2018年の約28億3,000万カナダドルから約29億5,400万ドルに増えた。サレーからラングレーへの延伸も、事業費が約40億ドルから約60億ドルに膨らみ、開業予定は2028年後半から2029年後半に延びている。
では、バンクーバーの鉄道工事は、工期も費用も本当に突出しているのだろうか。鉄道大国・日本の東京や福岡、カナダ最大の都市トロントの事例と並べてみると、意外な結果が見えてきた。ブロードウェイ地下鉄の1キロあたりの建設費は、東京の地下鉄延伸と近い水準なのである。
ブロードウェイ地下鉄は、なぜ遅れたのか
ブロードウェイ地下鉄は、ミレニアム線をVCC–Clark駅からArbutus駅まで約5.7キロ延ばし、地下駅を6つ新設する計画である。施工業者が工事を始めたのは2020年秋で、現在の開業予定は2027年秋。工事開始から開業まで約7年を要する見通しだ。
2022年には、コンクリート業者の5週間のストライキなどでトンネル掘削の開始が遅れ、開業予定が2026年初めに変更された。さらに2024年、埋設物の移設や、交通を保ちながら駅を造るための仮設デッキの設置に想定以上の時間がかかり、開業は2027年秋へ延びた。
2026年5月には、新しい線路で列車の試験走行が始まった。トンネルや駅が完成しても、開業前には列車を走らせ、システム全体を確認する必要がある。
サレー・ラングレー線は、物価上昇で費用が膨らんだ
サレー・ラングレー線は、フレーザー・ハイウェイ沿いに高架線を造る約16キロの延伸である。州政府は、インフレや資材価格の上昇、サプライチェーンの圧力、人手不足によって、事業者からの価格提案が高くなったと説明している。2022年時点で約40億ドルだった事業費は、2024年に約60億ドルへ改定された。開業予定も2028年後半から2029年後半に延びている。
当時の交通相は、建設資材が約60%、人件費が約20%、海外からの部品輸送費が100%以上上昇したと述べた。この路線は主に高架であり、地下を通るブロードウェイ地下鉄とは工事条件が異なる。
東京の延伸は、工事開始から10年以上
東京では、有楽町線を豊洲から住吉まで約4.8キロ、南北線を白金高輪から品川まで約2.5キロ延ばす工事が進んでいる。東京メトロは2024年11月に両路線の工事に着手し、開業目標を2030年代半ばとしている。工事開始から開業までは10年以上となる見込みだ。
なぜ、東京でもこれほど時間がかかるのか。背景の一つとして考えられるのが、既存路線や地下構造物との接続・調整である。有楽町線は豊洲駅から東陽町を経て住吉へ延びる計画で、住吉では半蔵門線・都営新宿線と接続する。南北線の延伸では、営業中の南北線の直下に品川方面へ分岐する構造物を造る計画である。
東京メトロの工事計画には、既存駅の改良や営業中の路線の下での工事が含まれている。さらに、品川駅周辺ではリニア中央新幹線の駅工事や再開発も進行中である。こうした工事との調整も必要となる。両路線は2022年3月に鉄道事業の許可を受けてから、工事着手まで2年半以上を要した。
日本でも、予定どおりに進むとは限らない。福岡市地下鉄七隈線の天神南〜博多間は約1.4キロの延伸である。2013年度に本体工事が始まり、当初は2020年度の開業を目指していたが、2016年に博多駅前で道路陥没事故が発生。開業は2023年3月にずれ込み、着工から約10年を要した。事業費も当初の約450億円から約587億円に増えている。
ブロードウェイ地下鉄はすでに2度延期されているが、それでも東京の延伸計画より短い工期での開業を見込んでいる。ただし、ブロードウェイは延期後の日程、東京は現時点の目標であり、工事条件も異なる。単純な順位づけにはできない。
1キロあたりの費用は、東京の2路線に近い
事業費を建設距離で割ると、ブロードウェイ地下鉄は1キロあたり約5.2億カナダドルである。東京の有楽町線・南北線延伸は約4.6億〜5.0億カナダドルで、近い水準だ。一方、福岡の七隈線延伸は約3.7億カナダドルであり、日本国内でも差がある。
| 路線 | 距離 | 事業費 | 1kmあたりの費用 | 工事開始〜開業 |
|---|---|---|---|---|
| ブロードウェイ地下鉄 | 5.7km | 約29.54億カナダドル | 約5.18億カナダドル | 2020年秋〜2027年秋(約7年) |
| 有楽町線延伸(豊洲〜住吉) | 4.8km | 約2,690億円 | 約560億円(約4.96億カナダドル) | 2024年11月〜2030年代半ば(10年以上) |
| 南北線延伸(白金高輪〜品川) | 約2.5km | 約1,310億円 | 約524億円(約4.64億カナダドル) | 2024年11月〜2030年代半ば(10年以上) |
| 福岡・七隈線延伸(天神南〜博多) | 約1.4km | 約587億円 | 約419億円(約3.71億カナダドル) | 2013年度〜2023年3月(約10年) |
注:東京の距離・事業費は国土交通省の資料、七隈線の距離・費用・開業日は福岡市地下鉄の公表値に基づく。東京の開業時期は現時点の目標であり、今後変更される可能性がある。費用に含まれる項目や算出時点、工法などの条件は路線ごとに異なるため、厳密な同条件比較ではない。為替は2026年10月29日のレート(1カナダドル=約112.9円)で一律に換算した概算である。
トロントでは、工期も費用もさらに大きな話に
カナダ国内で見ると、バンクーバーとトロントの状況はかなり違う。トロントのエグリントン線は2011年に工事が始まり、2026年2月に乗客向けの運行を開始した。着工から開業まで約15年である。2016年時点では2021年9月の供用が見込まれていた。方式はLRTだが、都市鉄道の工期を考える参考にはなる。
トロントで建設中のオンタリオ線は、全長約15.6キロの地下鉄新線である。2019年の州予算では建設費を約109億ドルと見積もっていたが、2026年8月、MetrolinxのCEOは現在の費用を約340億ドルと説明した。残る契約次第でさらに増える可能性がある。現在の数字には30年間の運営・保守費なども含まれるため、2019年の見積もりとそのまま比べることはできないが、それを差し引いても規模の違いは大きい。
トロントと比べれば、バンクーバーの事業は工期も費用もまだ抑えられていると言ってよい。
速く造ったカナダ線には、別の代償があった
バンクーバーのカナダ線は、2005年11月に着工し、2009年8月17日に開業した。約19キロの路線を4年弱で完成させ、予定より約3か月半早く、予算内で開業したと当時の政府は発表している。冬季五輪を控えた期限も、工事を急ぐ要因であった。
その速さを支えたのが、キャンビー通りの道路を掘り返して地下に線路を通す開削工法である。工事中は沿道の店舗や交通に大きな影響が出た。キャンビー通り16番街でマタニティ服店を営んでいた店主は、売り上げを失ったとして事業者らを訴えた。2009年、BC州最高裁は約60万ドルの賠償を認めたが、2011年に州控訴裁は、工事による迷惑は認めつつも事業者には法律上の権限があったとして判決を覆した。カナダ最高裁も上告を受理しなかった。早い開業の代償を、沿道の店が負ったかたちである。
この記憶は、その後の計画にも影を落とした。ブロードウェイ地下鉄の地下区間がトンネル掘削で造られることになった背景には、カナダ線工事の苦い経験があったと報じられている。その結果、1キロあたりの費用はカナダ線の4倍以上になるとの試算もある。交通を維持しながら進めるブロードウェイの工事にも沿道への影響はあるが、街を止めずに造るためのコストは、工期と事業費に表れている。
スカイトレインは、むしろ健闘しているのか
工期で見れば、ブロードウェイ地下鉄は東京の延伸計画より短く、トロントのエグリントン線の約15年よりはるかに短い。遅いどころか、むしろ健闘していると言える。最終的な評価は開業後になるが、少なくとも「バンクーバーだけが特別に遅い」わけではない。
一方、費用は東京の2路線に近い水準だが、福岡の事例より高く、世界的に見れば決して安くない。その一部は、街への影響を抑えるために払っている代償でもある。
それでも「遅い」と感じてしまうのは、延期のニュースが目立ち、大都市の鉄道工事にどれほど時間がかかるのかが見えにくいためだろう。
速く安く造るか、工事中の街への影響を抑えるか。カナダ線は前者を選び、ブロードウェイ地下鉄は後者を選んだ。工期と費用は、そうした選択の結果でもあるのである。
次に「また延期」というニュースを見たときは、何年かかるかだけでなく、工事の間に街への影響をどう抑えようとしているのかにも目を向けてみたい。
