同じ電気、2つの請求書
条件をそろえるため、1か月402kWhで比べました。東京都が電気代の価格調査で使っている使用量です。
バンクーバーでBC Hydroの段階料金の場合、31日間で402kWhなら、すべて第1段階に収まります。基本料金7.27ドルと電力量料金47.72ドルにGST5%を加えて、57.74ドル。1kWhあたり約14.4セントです。(メトロバンクーバーの請求書には、地域交通税と繰延勘定レートライダーも載りますが、合わせても1ドルほどです。)
東京で東京電力の「従量電灯B」、30Aの契約の場合、同じ402kWhで2026年8月分の請求は約12,745円。カナダ銀行の2026年8月の為替レートで約111.39ドルです。国の一時的な補助がなければ14,152円、約123.69ドルでした。どちらで見ても、ほぼ2倍です。
当サイトの「日本との比較」ページが使っている東京都の価格調査では、2026年8月の402kWhの電気代は13,368円です。私の計算との差は、調査の契約条件や時期の違いによるものと考えられますが、結論は変わりません。

東京の請求書の中身
東京電力の請求書は、BC Hydroとは少しつくりが違います。
基本料金(30A):935円
電力量料金:120kWhまで1kWhあたり29.80円、300kWhまで36.40円、それを超えると40.49円。402kWhで14,258円
燃料費調整額:1kWhあたり−6.77円、−2,722円
国の補助(7月使用分):1kWhあたり−3.50円、−1,407円
再エネ賦課金:1kWhあたり4.18円、1,680円
消費税10%は、これらの単価にすでに含まれています。
ここで、注目すべき点が2つあります。一つは、使うほど単価が上がる仕組みはBC州と同じでも、出発点がまったく違うことです。東京でいちばん安い1kWh(29.80円、約26セント)でも、BC州でいちばん高い1kWh(14.08セント)の2倍近くします。もう一つは、燃料費調整額がマイナスになっていることです。燃料が安いという意味ではありません。東京電力の今の料金は、燃料が高かった2023年に、それに見合う燃料価格を前提として決められました。輸入燃料のコストは、もともと1kWhあたりの単価に組み込まれていて、燃料費調整額は実際の燃料価格がその前提からどれだけずれたかを差し引きするだけです。
理由1:日本は輸入燃料で電気をつくっている
2024年度(2024年4月〜2025年3月)、日本の電気の67.5%は火力発電でつくられました。内訳は、液化天然ガス(LNG)が32.2%、石炭が28.1%、石油などが7.2%です。燃料はほぼすべて輸入で、日本のエネルギー自給率は16.3%にとどまります。
つまり、1kWhごとに、世界の市場で燃料を買い、船で運び、LNGなら−162℃まで冷やして運ぶコストが乗っています。2022年のエネルギー危機のような出来事に、日本の電気代が大きく反応するのはこのためです。
円安は、両方向に効いている
円はこの数年で大きく値下がりしました。2020年は平均で1カナダドル=約80円でしたが、2026年8月には約114円です。カナダドルで見ると、円の価値は約3割下がったことになります。
日本の家計にとっては、これは電気代の値上がり要因です。LNGや石炭、石油はドルで買うので、円安になれば同じ量の燃料に払う円が増えます。その分は、燃料費調整額やこれからの料金改定を通じて、請求額に入ってきます。
一方、この比較では逆向きに働きます。円をカナダドルに換算しているので、円安になるほど、東京の電気代はカナダドルでは安く見えます。2020年の平均レートで換算すると、同じ12,745円の請求は約160ドルで、バンクーバーの1.9倍ではなく2.8倍になります。つまり、日本の家庭が実際に払っている負担の差が縮まったわけではありません。為替のせいで、差が小さく見えているだけです。

理由2:BC州は、もともとある水で電気をつくっている
BC州の電気は、ほとんどが水力発電です。カナダ統計局によると、同じ2024年度にBC州で発電された電気の88%が水力でした。水は燃やしても燃料代がかかりません。しかもBC Hydroの大きなダムは、多くが1960年代から1980年代に建てられ、建設費はとうに回収されています。
そのため、BC州の電気代の中身は、燃料費ではなく、設備を維持し広げていく費用が中心です。BC州にとっての一番のリスクが、世界の燃料市場ではなく天気なのもそのためです。雨や雪が少ない年は、2023/24年度のように州外から電力を買う必要があります。これは前回の記事で詳しく書きました。

理由3:再エネ賦課金
日本では2012年から、固定価格買取制度で再生可能エネルギーの電気を買い取り、その費用をすべての家庭の電気代に上乗せしてきました。2026年5月〜2027年4月の再エネ賦課金は1kWhあたり4.18円。402kWhなら月1,680円で、東京の請求額の約13%にあたります。
BC Hydroの請求書には、これに相当する項目はありません。独立系の再エネ事業者から買う電力も含め、BC Hydroの電力の調達費用は、通常の料金の中に含まれています。
原発を動かせば、日本の電気代は下がる?
下がる可能性はありますが、ゆっくりで、限定的です。原発は一度建ててしまえば、燃料費はLNGや石炭に比べて安く済みます。お金がかかるのは、建設と、福島の事故後の安全基準に合わせるための対策、そして運転を続けるための費用です。
2011年以降、日本の原発の多くは止まり、2024年度の原子力の割合は9.4%でした。再稼働した原発は西日本に多くあります。新潟県の柏崎刈羽原発6号機は2026年1月21日に再稼働し、4月16日に営業運転を始めました。東京電力の原発が動くのは、福島第一原発の事故のあと初めてです。
原発が増えれば輸入燃料が減るので、長い目で見ればコストは下がっていくはずです。ただ、それがいつ、どれだけ家庭の電気代に反映されるかは、燃料の節約分だけでなく、電力会社と国の料金の決め方しだいです。
カナダの原発事情は?
カナダにも原発はあります。ただし、BC州にはありません。2024年、カナダの原子力発電は8,070万MWhで、国全体の電気の約13%でした。その多くはオンタリオ州で、2024年は州の電気の48.5%を原子力が占めています。ニューブランズウィック州にも原子炉があります。
BC州は、法律で原子力を使わないと決めています。クリーン・エネルギー法は、BC州のエネルギーの目標を「原子力を使わずに」達成するとしています。つまり、BC州の電気代が安いのは原発のおかげではありません。大きな川と山、そして何十年も前に建てられたダムという、地理のおかげです。
暮らしへの影響
補助があってもなくても、東京の電気代はバンクーバーの約2倍です。燃料費調整額や国の補助で毎月の請求額は上下しますが、2倍という差そのものは変わりません。差をつくっているのは、電源構成の違いです。
この差を縮められるのは、電源そのものを変えることだけです。日本では原発の再稼働や再生可能エネルギーの拡大がそれにあたりますが、効果が家庭の請求書に届くまでには時間がかかります。BC州の安さも、黙っていて続くわけではありません。支えているのは、何十年も前に建てたダムと、毎年の雨と雪です。雨の少ない年が続けば、州外から高い電気を買うことになります。つまり、この2倍の差は、どちらかの電力会社の努力の差ではなく、地理の差といえるでしょう。
ほかの身近な物価も、当サイトの「日本との比較」ページで比べられます。BC Hydroの請求額は、Electricityのページの計算ツールで、ご自分の数字で試してみてください。